「信州健康ゼロエネ住宅」のポイントを解説

2023/4/7:2023年度版の解説記事を公開しました。
【2023年度最新版】「信州健康ゼロエネ住宅」のポイントを解説

(2022/5/13:長野県サイトが更新されました。詳細な手続きの流れなどはそちらを参考にしてください)

(2022/3/29:項目ごとの加算金額などを更新しました。事業内容はまだ未確定であるため、細部が変更になる可能性があるそうです)

こんにちは。
新津組 代表の新津です。

長野県では2022年度より「信州健康ゼロエネ住宅」助成金制度がスタートします。
かねてより「信州型健康ゼロエネ住宅(仮称)」として制度設計が進んでいましたが、2022/3/15に正式な名称と指針が示されました。
県のゼロカーボン戦略の一環で、県民の健康増進と住宅の省エネルギー化・脱炭素化が目標。
信州の自然環境と森林資源を活かしたエコハウスの普及を促進するため、一定の基準を満たした木造住宅に助成金が交付されます。
従来の「信州健康エコ住宅」および「環境配慮型住宅」制度が整理・拡充されたものになります。

パッシブハウスに代表される高断熱高気密住宅は断熱性能を向上させる分、どうしても初期費用がかさんでしまうことがデメリット。
この制度によって得られる補助金により、高性能住宅を建てるハードルが下がることが期待できます!

補助金額はいくら出るのか? いつから制度開始なのか? どの会社で建てれば使えるのか?
重要なポイントを解説していきたいと思います。

「信州健康ゼロエネ住宅」の補助金額は?

補助金の額は50万円~150万円。
ただし、太陽光発電設備(3kw)や木質バイオマス利用暖房設備(薪ストーブ等)を設置できない場合、補助額は40万円~80万円となります。

これまでの「信州健康エコ住宅」の補助額が50万円~100万円。
貰える金額が従来比で最大1.5倍と、県がかなり力を入れた制度となっていることが分かります。
 

「信州健康ゼロエネ住宅」の開始時期は?


2022(R4)/4/15~2023(R5)/2/15がR4年度分の受付期間です。(予算額に達し次第終了)
工事契約・着工後に県(建設事務所)に補助金の交付申請を行い、書類審査と中間時現場検査を経て交付が決定されます。
 

「信州健康ゼロエネ住宅」の対象となる建物は?

県内の地域工務店のつくる木造在来の新築住宅、およびリフォームが対象です。
鉄骨造、鉄筋コンクリート造や、大手ハウスメーカーの住宅は対象外です。

また、「自己の居住用に一戸建て木造住宅を新築する者」が対象であるため、
事業者自身がつくる分譲住宅や集合住宅には適用されないようです。
また、国の新築補助制度(こどもみらい住宅支援事業、グリーン化事業、ZEH化支援事業)と併用することはできません。
 

「信州健康ゼロエネ住宅」の基準とは?

基準は全11項目。そのうち6項目は必ず備えるべき基本項目。5項目は確保することが望ましい配慮項目です。
また、基本の6項目は更に3つの基準に分かれており「最低基準」「推奨基準」「先導基準」が設定されています。

基本項目は外皮性能(UA値)、長野県産木材の使用量、耐震性能、など。
配慮項目は太陽熱利用設備の設置、気密性能(C値)の確保、暖房負荷の低減、などです。
各項目を高い水準で満たすことによって、補助金が増額されていく仕組みです。
 

基本額50万円の条件は?


基本額50万円を受け取るための詳しい条件は上の表の通りです。
「一般向けの住宅見学会を実施」することに注意が必要です。
5~9の各項目と加算金額については以下で解説していきます。
 

項目別解説(1):外皮性能(UA値)


国の断熱等級とほぼ連動しています。
最低基準=等級5、推奨基準=等級6、先導基準=等級7です。
各等級の解説については別のブログ記事で書いています。
快適性と省エネ性、将来の資産価値を考えれば推奨基準=等級6以上を狙いたいところ。

推奨基準で20万円が、先導基準で40万円が加算されます。
加算額としては各項目で最も金額が大きくなっており、「断熱が重要」という分かりやすいメッセージが込められているように感じます。
 

項目別解説(2):一次エネルギー消費量の削減


エコキュートやエコジョーズなどの高効率給湯器やLED照明など、
ごく一般的な住宅設備を使えば最低基準は満たせると思います。
更に、木質バイオマス暖房(薪ストーブやペレットストーブ)や、
全熱交換型の第一種換気を活用することが推奨されています。
 

項目別解説(3):県産木材の利用


前身の「信州健康エコ住宅」ではこの基準がかなり厳しくなっていましたが、今回は仕上材での利用でもOKになり、条件が緩和されました
最低基準は3㎥または仕上材30㎡。
3㎥は、家の大きさにもよりますが、構造材の10~15%程度を県産材にすれば達成できます。
仕上材30㎡は、外壁の一部を県産材にすれば十分でしょう。(延床30坪、総2階の家の外壁が約150㎡ほど)
推奨基準以上は、貰える補助金と掛かるコストとの兼ね合いで判断されるのが良いかと思います。
 
推奨基準で10万円が、先導基準で20万円が加算されます。
構造材を県産材に変えることによるコストアップをこの加算分でカバーできるかはかなり微妙なところです。
各施工会社さんに見積もりをいただいてから判断されるのが良いかと思います。
 

項目別解説(4):太陽光発電設備または木質バイオマスを利用した暖房設備の設置


(4/1:薪ストーブ等の条件が抜けていたため追記しました。)
最低基準は3KW以上の太陽光発電パネルの設置、もしくは薪ストーブやペレットストーブを設置する必要があります。
 
太陽光発電の場合、一般的に4kW~6kWを搭載するご家庭が多いでしょうから、問題なく満たせる基準ですね。
先導基準では、(あくまで概算ですが)8kW程度あれば良いのではないでしょうか。

薪ストーブやペレットストーブの設置のみでも最低基準を満たすことができます。
このような木質バイオマス設備を設置する場合は、暖房設備の消費エネルギーを70%削減できるものと見なせるようです。(長野県独自ルール)
推奨基準以上を満たすためには太陽光発電パネルが必須となりますが、薪ストーブ等を併用することで、必要となる太陽光パネルの容量をかなり減らすことができそうです。
 
こういった設備の組み合わせにより長野県が定義するゼロエネルギーを達成した場合、20万円が加算されます。

なお、地理的条件等につき太陽光発電パネルも薪ストーブ等も設置できない場合、
基本額が40万円、最大額が80万円に減額されてしまいます。
  

項目別解説(5):住宅の強靭化


耐震性能は、壁量計算で1.25~1.5倍が必要です。
外壁部分で耐力を取ることになるため、窓など開口部の割合には注意です。
南側の窓を大きくするパッシブ設計と耐震性能の両立がポイントとなりそうです。
ただ、壁量を1.5倍に上げたとしても補助金が加算されることは無いようです。
 
災害リスクの低減として、ハザードマップの外側の土地に住宅を建てることが求められています。
推奨基準以上では蓄電池の設置も必要です。
蓄電池の購入は国の補助金も充実して来ているので、そちらと併用するのが良いでしょう。
 
「太陽熱利用給湯システム」または「容量4kWh以上の定置型蓄電設備」を導入することで10万円が加算されます。
電気自動車を蓄電池として使えるV2H設備が対象になるのかは確認中です。定置型の指定があるため、V2Hは対象外だと思われます。)
 

項目別解説(6):景観・周辺環境との調和


外観における見かけ上の最高軒高が7m以下である必要があります。
ここは特に問題になることは無いかと思います。
 

項目別解説(その他の配慮項目)


地方自治体の制度に気密性能や暖房需要(暖房負荷)が取り入れられたのは初でしょうか?
かなり画期的かつ意欲的だと思います。

補助金に対する影響はあまり大きくないでしょうから詳しくは解説しませんが、
配慮項目もできるだけ満たすように設計した方が、住んでからの満足度や利便性が増すことは間違いありません。
 
配慮項目の中では、「伝統技能の活用」によって10万円が加算されます。
左官仕上げ、瓦ぶき、木製建具、畳のうち、2つ以上を活用する必要があります。

加算額一覧とまとめ


加算額の一覧は上の表の通りです。
 
私の個人的なオススメは、
1.断熱性能を先導基準にして+40万円
2.太陽熱温水器を導入して+10万円
3.薪orペレットストーブを入れるか、太陽光発電をたくさん載せて+20万円
4.外壁と内壁の一部を塗り壁仕上げにして、和室を作って+10万円
の、合計補助金額130万円コースです。
 
国の「こどもみらい住宅支援事業」は最大100万円の補助なので、
最大金額は「信州健康ゼロエネ住宅」の方が多くなることになります。
その分、断熱性能や再エネ設備等の条件も多くなっていますので、どちらを選択するかどうかは設計者さん・施工者さんと良く打ち合わせするのが良いでしょう。
(「こどもみらい」は景気対策の時限政策ですので来年以降は使えない可能性が大きいですが、「信州住宅」は早くも来年度の実施も決まっているようですので、その点では優位ですね)
 
解説は以上です。
制度の詳細は、記事始めに県のサイトをリンクしてありますので、そちらからご確認ください。
長野県での家づくりで使える補助金制度としてはかなりお得なものとなっていますので、
この記事を参考に最大限活用していただければ幸いです。

新津

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