こんにちは、新津組の新津です。
今回のテーマは「蓄熱」について。
一般的に、住宅における蓄熱には以下のような効果があると言われています。
・日中の太陽熱を蓄え、夜間に熱を少しづつ放熱する。(冬の場合)
・日中の温度上昇を蓄熱材が優先して引き受けることで、
室温が上昇することを抑える。(夏の場合)
・冷暖房エネルギーの削減と、室温の変化をゆるやかにする効果がある。(夏冬共通)
各ハウスメーカーさんやビルダーさんが展開する独自工法のなかでは、
蓄熱をとても重要だと説き、場合によっては断熱と同等かそれ以上の効果があると言い、
専用蓄熱部材のセールスに繋げているケースも見受けられます。
では、パッシブハウスでは蓄熱はどのような扱いになっているのでしょうか。
佐久平パッシブハウス(認定申請予定)を例に計算してみることにします。
パッシブハウスの蓄熱性能計算
上の画像はPHPP(パッシブハウス・プランニング・パッケージ)の蓄熱性能値の入力欄です。
蓄熱性能の計算式と、木造やRC造などの構造別の性能目安が書かれていますが、
かなり簡易的なものとなっているのが分かるかと思います。
PHPPのマニュアルによると
「蓄熱性能は暖房需要、夏期の温度的快適性や冷房需要にいくらかの影響は与えるものの、
他の影響力の強いパラメーターと比べれば、実際の影響はわずかです。」
とあります。
実際に蓄熱性能を変えていき、建物性能全体にどの程度の影響があるのか見ていきます。
検討するのは以下の3パターン。
最小値:60Wh/(㎡K)…木造床断熱相当
申請値:84Wh/(㎡K)…木造基礎断熱相当
最大値:204Wh/(㎡K)…RC造相当
実際に申請に使う蓄熱性能84Wh/(㎡K)のパターンと比較すると、
最小の蓄熱で暖房需要は3ポイント悪化、冷房需要は1ポイント悪化。
最大の蓄熱で暖房需要は6ポイント改善、冷房需要は2ポイント改善。
という結果になりました。
マニュアルにある通り、わずかの影響だと言って差し支えないレベルだと思います。
(参考までに、断熱等級4の住宅とパッシブハウスとでは暖房需要に100ポイント以上の差が生じます)
計算上の影響は少ないが無視はできない
計算上では、蓄熱性能を上げてもあまり意味がないという結論になってしまいました。
建築予算の上で断熱か蓄熱かどちらかを優先するとするのであれば、やはり断熱がオススメです。
が、蓄熱性能を完全に無視して良いという訳ではありません。
断熱はマクロ物理学の理論で明確に計算できるが、
蓄熱はミクロ量子力学の範疇になるため数字で説明することがまだまだ難しい。
という説も聞いたことがあります。
基本は断熱を優先としつつ、可能な範囲で蓄熱も高めた方が
快適な空間を実現できる可能性は高まっていくのではないでしょうか。
実際に、私の自宅である佐久平PH(予定)でも
蓄熱性能を高める工夫をいくつか盛り込んでいます。
蓄熱性能を上げるには?
表は、国土技術政策総合研究所資料による、材料別の蓄熱容量一覧です。
(https://www.kenken.go.jp/becc/TechRep_761_148.html 第2編より引用)
容積比熱と有効蓄熱厚さの高い材料を使えば、蓄熱性能は高まります。
これを踏まえ、私が採用した手法は以下の通りです。
1.床断熱ではなく、基礎断熱を使う
PHPPの数値にも反映される手法です。
断熱ラインを基礎コンクリートの外側に設定することで、
床下全体を床面積✕厚さ150~200mmほどの巨大な蓄熱体として活用できるようになります。
ただし基礎断熱と床断熱では蓄熱面以外でも建築特性が全く違ってきますので、
蓄熱目的だけで安易に採用するのは危険です。
どちらを採用するかは設計士さんと入念に相談するのが良いでしょう。
2.プラスターボード(せっこうボード)を2枚貼りにする
12.5mmを2枚で25mm。これもPHPPの計算にわずかながら反映されます。
ボード2枚貼りは、コストと施工手間の割りには様々な面で恩恵が大きくオススメです。
(蓄熱性、防音性、耐火性の向上。クロスなど仕上げ材の割れ防止。)
3.石材・タイル等の蓄熱容量の大きい素材を使う
冬の直射日光の当たる南側の土間部分を石材仕上げとしてみました。
ただし厚さ10mm程度の仕上げ材であるため、
材料そのものの容積比率が高いと言っても効果は限定的かと予想しています。
蓄熱目的というよりも、デザインや実用性重視の結果ですね。
4.しっくい壁や土壁を使う(厚みによる)
これも蓄熱を高める方法として良く言われることが多いです。
が、一般的な仕上げ厚さは1~2mmと、石材・タイルよりも更に薄くなります。
そのため、しっくい仕上げ等の総合的な蓄熱性能は
一般的なビニールクロスとほぼ変わらないと思います。
佐久平PH(予定)では、寝室など一部の壁に厚さ25mm+αの土壁を採用するため、
そこそこの蓄熱性能を発揮してくれるものと期待しています。
(番外)水を入れたペットボトルを並べる
水はコンクリートの約2倍の容積比熱を持つと言われています。
そのため、水を入れたペットボトルを基礎断熱の床下に大量に置くことで
最小のコストで蓄熱性能を大幅に高めることができるはずです。
実際にこれを行っている施工会社さんやお施主さんも居ると聞いています。
床下に潜って作業する手間もあるので私は現時点での採用は考えていませんが、
一冬をペットボトルのあり/なしで比較して温度データを取るのも面白いかもしれませんね。
まとめ
- 蓄熱の影響は意外と少ない!
- 蓄熱よりもまずは断熱を!
- しかし蓄熱性能は高いに越したことはない!
- 材料の厚みを考えて蓄熱性能を高めよう!
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