パッシブハウスに1年間住んでみた① ~光熱費編~

こんにちは!
東信州の建設会社、新津組 代表の新津です。

自宅 兼 会社コンセプトハウスとして建築した佐久平パッシブハウス(認定申請予定)。
2024年9月時点をもって、住み始めて丸1年が経過しました!
そこで、今回のブログからは「パッシブハウスに1年間住んでみた」と題した新シリーズを開始してまいります!

※以下の記事では4ヶ月時点でのデータを公開しています。ご興味あれば本記事と合わせてどうぞ。
パッシブハウスに4ヶ月間住んでみた(前編:温度・湿度編)
パッシブハウスに4ヶ月間住んでみた(後編:電気代・ガス代編)

言葉でいくら「快適」「省エネ」と言っても、数字の裏付けがなければ説得力に欠けてしまいます。
このシリーズでは実際に住みながら測った各種データをもとに、できるだけ客観的になるような情報発信を心がけたいと思います。
「世界最先端のエコ住宅」のリアル、どうかご覧ください!

今回の目次は以下の通りです。
・1年間の光熱費を一覧表にしてみた
・マンション時代の光熱費と比較してみた
・寒冷地の平均光熱費と比較してみた
・ZEHの光熱費と比較してみた
・まとめ
・おわりに

1年間の光熱費を一覧表にしてみた

自宅の年間光熱費を一覧にしてみました。
数字は電気会社(中部電力)とガス会社(長野都市ガス)の検針票をもとにしています。金額は消費税込みです。
検針タイミングは毎月11日ごろ。9月11日時点の集計は8月分として扱う、といったかたちで表に落とし込んでいます。

この1年間の建物内の環境は、延床55坪(181.6m2)の全室でおおむね23~26℃・45%くらい。
全館空調換気システムを常時動かしている状態です。

1年間で、電気代は約10万1千円。ガス代は約4万5千円。合わせて約14万6千円でした。
いっぽうで、太陽光発電の余剰分を売電した金額が約17万3千円
その結果、負担した金額はマイナス2万7千円。つまり2万7千円の“得”となりました!

月ごとの数字を見ていくと、やはり冬の負担額が大きくなっていますね。
冬は日が短く、太陽光発電の出力が落ち込み、夜間にも暖房が要るようになります。その結果、買電が増え売電が減る傾向です。
冷暖房を必要としない春が一番良い成績。秋が春ほど良くないのは2023年の猛烈な残暑の影響かと思われます。

電力プランは中部電力「スマートライフプラン夜とく」
これにCO2フリーオプション「信州Greenでんきハーフ」(kWhあたり+2.2円)を付けて、再エネ由来の電力のみ購入するようにしています。
なお、2023年9月は、電力契約のアンペア容量がかなり高い状態になっていたため、電気基本料の分だけ光熱費が高くなってしまっています。

この電気代には電気自動車1台(日産サクラ)の分も含まれています
主に太陽光発電の余剰分による充電なので、実際にはこの表以外に走行に使うガソリン代も節約になっているのです。
V2Hによる蓄電システムは、おそらく経済効果プラスマイナスゼロくらいでしょうか。
詳しくは「ニチコンV2Hで「元を取る」使いかたを検証してみた」を参照ください。

ともあれ、年間の光熱費負担がゼロ、というのは寒冷地では信じられないくらいの好成績です。
この数字がどれくらい凄いものなのか、次の項でさまざまなケースと比較していきます!

マンション時代の光熱費と比較してみた

パッシブハウスに住む前は、同地区の2011年竣工の鉄筋コンクリート造マンションに住んでいました。
パッシブハウスは電気と都市ガス、マンションはオール電化と、使用エネルギーに違いはあるものの、同じエリアで同じ家族が暮らしたケースです。
両者の光熱費を比較することで、パッシブハウスの省エネ度の理解につながるかと思います。

マンションの電気代が年間で約30万円。対して、パッシブハウスの光熱費負担がマイナス約2万7千円。
合計で、年間約33万円、月あたり2万8千円の大きな改善となりました!

太陽光発電のアリ/ナシも改善理由ですが、やはり断熱性能向上・設備効率上昇による効果が大きいと思われます。
月ごとで見ても冬期の改善幅がとても大きくなっていますね。

マンションに比べて床面積は約3倍、天井高を考慮した容積では約4倍になっています。
それでもエネルギー代金はぐぐっと下がり、快適性は比べものにならないほど向上しました。
一般的には木造戸建てよりも鉄筋コンクリートマンションの方が省エネ・快適なイメージがあるかもしれません。
必ずしもそうではなく、個々の建物をどう設計し、どう建てるかというのが重要だ、ということがお分かりいただけるかと思います。

寒冷地の平均光熱費と比較してみた

次は戸建て・マンション含めた全国の住宅と比較してみます。
光熱費は地域によってかなりの差があり、寒冷地ほど高くなる傾向にあります。
環境省の調査で、地域別の光熱費がまとめられていましたので紹介します。


環境省「令和3年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査(家庭CO2統計)」P.36より引用。

長野県は北陸に属しますが、私の住む佐久エリアは長野県でも最も寒い地域です。
寒さレベル(暖房デグリーデー)では佐久市と青森市でほぼ同等となります。
青森市も東北ではかなり寒い方なので、このグラフから比較対象の光熱費を読み取るとしたら、北海道と東北の間くらいでしょうか?

寒冷地の平均光熱費が年間で23万5千円~23万2千円くらい。
対して、自宅パッシブハウスは負担がマイナス約2万7千円(売電を考慮しないと約14万6千円の支払い)です。
上のマンション比較と同様に、寒冷地の建築と比べて大きな光熱費削減に成功していることが分かりました。

ZEHの光熱費と比較してみた

最後の比較対象はZEH(ネット・ゼロエネルギーハウス)
国が推奨する省エネ住宅の代表格です。

ZEHは経済産業省・国土交通省・環境省が連携している事業だけあって、毎年詳細な調査・報告がなされています。
実際に住んでいる人へのアンケートにより、消費電力量やガス量などの実績データも豊富です。
今回はその実績データからZEHの光熱費を推計し、パッシブハウスと比較してみました。


sii「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業調査発表会2023」P.126より引用。

全国のZEH約5,000棟の平均エネルギー量が月別に一覧でまとまっています。(2022年度調査の場合)
この消費量に我が家の毎月の電気代単価・ガス代単価・売電単価を組み合わせて、ZEHの光熱費を出してみることにします。
ちなみに、調査対象約5,000棟のうち、ガスを利用しているのは約900棟ほど。
ZEHも全てがオール電化というわけではなく、ガスコンロやガス暖房を使っていたりするようですね。

結果は上の表の通りです。
電気代は、ZEHが約15万3千円に対し、パッシブハウスが約10万1千円。
ガス代は、ZEHが約11万円に対し、パッシブハウスが約4万5千円。
電気代とガス代の合計は、ZEHが約26万3千円に対し、パッシブハウスが約14万6千円。
売電額は、ZEHが約9万9千円に対し、パッシブハウスが約17万3千円。
実質の負担額は、ZEHが約16万5千円に対し、パッシブハウスがマイナス2万7千円。

すべての項目・すべての月でパッシブハウスがZEHよりも節約となり、最終的な金額差は年間19万1千円となりました。

なお、上に挙げたZEH実績調査は全国平均の集計になっているので、寒冷地平均よりも光熱費は安く出ています。
また、自宅パッシブハウスはZEH平均値と比べて床面積が1.7倍大きいので、その分エネルギー消費が多くなります。

仮に同じ地域・同じ床面積に揃えて比較した場合、光熱費の差は更に大きくなるでしょう。
さきほど紹介した環境省調査では、全国平均に近い関東と、寒冷地北海道とでは、光熱費が約1.4倍違っていました。

諸々を考慮すると、売電を考慮しない条件でも、パッシブハウスはZEHと比較して光熱費が1/3~1/4くらいになってもおかしくなさそうな感触です。

ちなみに、自宅パッシブハウスの1年目は設計時に想定したものよりも不利な条件になっていました。
日射コントロール用の外付けブラインドは未設置で、木質ペレットを用いた補助暖房は設備の調整中です。
これらが動かせるようになる2年目以降は、更に省エネ・快適に住むことができるようになるでしょう。

1年間で20万円の差は、10年で200万円、30年で600万円になります。
ZEHを建てるのであれば、初期費用を掛けてより快適・省エネなパッシブハウスに近づける
長期的なコストパフォーマンスを考えると十分にアリな選択肢かと思います。

まとめ

パッシブハウス光熱費の実質負担額は、
・同地区の鉄筋コンクリートマンションと比較して、年間33万円の得。
・寒冷地住宅の平均と比較して、年間26万円の得。
・全国のZEHの平均と比較して、年間19万円の得。

という結果になりました!

「省エネ住宅」と言われるZEHと比較しても、大幅な節約に成功しているというのが(自分でも)驚きでした。
断熱・気密・熱橋・日射コントロール・熱交換換気というさまざまな要素が計算されたパッシブハウス。
そこに再生可能エネルギー(太陽光発電と太陽熱温水器)も設置しています。
シミュレーション上だけでなく実際の光熱費においてもその実力が発揮されていますね!

おわりに

今回の記事は以上となります。
実は「1年間の光熱費をZEHと比較する」というのを住み始めてからずっとやってみたかったのです。
予想以上に良い結果が出たので満足しています!

次回以降の「パッシブハウスに1年間住んでみた」では、
・回路別の電力消費量。どの設備・家電が電気を使っているのか?
・住んでみてのエネルギー消費量をシミュレーション(PHPPやWebプログラム)と比較。予測の精度は?
・太陽光発電の経済効果を算出。何年で元が取れるのか?FIT無しでもお得なのか?
・(番外)日産サクラの1年間の電費実績。寒冷地でEVは使えるのか?

と言った内容を書いていこうと思います。
更新は不定期となりますが、気長にお待ちいただければありがたいです。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!
また次回の記事でお会いしましょう!

新津

補足:建物スペック

建築地:長野県佐久市(省エネ区分3地域 標高700m)
構造:木造在来2階建 許容応力度計算による耐震等級2 常時微動探査による固有周期0.12秒
延床面積:55坪(181.6㎡)ガレージ除く
パッシブハウス基準値:暖房需要9.80 冷房需要16.12 ACH0.17回/h
外皮性能:UA値0.21(ヒートブリッジの影響を含む計算値0.205)
     C値:0.1(測定値0.055)Q値1.06
太陽光発電:パネル12.0kW パワーコンディショナー9.9kW
 (母屋パネル7.2kW PCS5.5kW & ガレージパネル4.8kW PCS4.4kW)
蓄電:日産サクラ(バッテリー容量20kWh) & ニチコンV2HプレミアムモデルVCG-666CN7
換気・空調:Zehnder Comfohome(ゼンダーコンフォホーム)CHM200
給湯:太陽熱集熱器・ガス給湯器(エコジョーズ)

※ペレットボイラーは調整中のため、木質バイオマスによる給湯補助・暖房補助・換気デフロスタ機能は使っていません。
※形状が断熱的に不利な離れの和室は、後日に補助エアコンを設置予定です。現状、母屋とは温度に2~4℃の差異が出ています。

パッシブハウスの住み心地はTwitter(X)とInstagramでも随時公開しています!

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