こんにちは!
東信州の建設会社、新津組 代表の新津です。
“世界最高の省エネ住宅”=パッシブハウスを自宅として住んでみて1年。
実績データを公開していくシリーズ「パッシブハウスに1年間住んでみた」の第2回目です。
第1回目で「パッシブハウスの光熱費はとても安かった」ということが分かりました。
今回の記事では「住宅のどの部分でどれくらいのエネルギーを使ったか」を深堀りしていきます。
比較対象として、他社の全館空調システムや、寒冷地のZEH、設計時の省エネシミュレーションとも比べてみます。
ややマニアックな内容になりますが、ぜひ最後までお付き合いください!
今回の目次は以下の通りです。
・1年間の電力消費量&都市ガス使用量
・住宅内の設備と家電、消費電力ランキング
・ゼンダーコンフォホームの電力消費量(他社システムと比較してみた)
・エネルギー用途別の一次エネルギー消費量(寒冷地ZEHと比較してみた)
・省エネシミュレーションは正確だったか?(PHPP&Webプロと比較してみた)
・まとめ
・おわりに
1年間の電力消費量&都市ガス使用量
2023年9月~2024年8月の全エネルギーの使用量を一覧にしました。
都市ガスは給湯と調理にのみ使用しています。
この期間内の佐久市の最高気温は37.5℃(2024.7.23)。最低気温は-10.9℃(2024.1.12)でした。
「総消費電力量」は敷地内で使ったすべての電力量。
「宅内回路合計」は住宅内の電気コンセントで使った電力量。V2Hを介したEV(電気自動車)への充電や、V2H本体の待機電力、太陽光発電のパワーコンディショナーの消費分は入っていません。
「EV充電電力量」はV2Hを使ってEVに充電した電力量。EVの走行と住宅への放電に使われます。
「EV放電電力量」はV2Hを経由してEVから住宅に放電(=給電)された電力量。充放電のロス率についてはこの記事で詳しく解説しています。
「売電量」は太陽光発電の余剰分を電力会社に売った量。買取価格は1kWhあたり17.0円(2022年度FIT)です。
「買電量」は電力会社から実際に買った電力の量。電気代はこの部分にだけかかります。
まずは月別に電力量を確認していきましょう。
総消費電力は冬と夏にピークが来ています。暖房と冷房の影響ですね。
太陽光発電は春に最大の効率となり、夏から秋にかけて徐々に低下し、冬には大きく発電量が落ちていきます。
都市ガス使用量は気温が低い時期ほど多くなります。夏と冬の使用量の差は、すなわち太陽熱温水器の効率の差かと思われます。
住宅部分の消費量は、7・8・9月で2,371kWh、12・1・2・3月で2,684kWh。
寒冷地では冬に消費量が一気に上がるのが常識ですが、パッシブハウスでは冬のピークがかなり抑えられていますね。
ただし買電量で見ると、7・8・9月で834kWh、12・1・2・3月で2,003kWh。
冬に買電が増えるのは、太陽光発電の出力が落ちることと、夜間や荒天時の暖房が原因だと考えられます。
(ちなみに、外気温マイナスでも日中に晴れると暖房は真夜中まで不要になります)
電気代ではやはり冬>>夏>秋>春となっているようです。
総消費電力量を100%として、各項目を見ていくと、
・太陽光発電量は146.2%。使った電力の1.5倍近くを生み出している。
・電力会社から買った電力量は総量の31.8%だけ。日中の太陽光発電で56.0%をまかない、更にV2Hの放電で12.2%を削減している。
ということが分かります。
この一覧表には書いていませんが、太陽光発電の自家消費率は38.3%。
太陽光パネル12.0kWでの通常の自家消費率の2倍くらいでしょうか。
EVへの充電やV2H利用で、太陽光発電をとても効果的に使えていると思います。
住宅内の設備と家電、消費電力ランキング
住宅内で使った消費電力(=宅内回路合計)をランキング形式にしてみました。
PanasonicのHEMSを利用しているので、電力回路ごとの消費が測定可能です。
冷蔵庫や洗濯機、食洗機や電子レンジなど、消費電力の大きい機器は専用の回路を設定してあります。
個室や浴室、トイレなどは1部屋をまとめて1回路になっています。
この表は、太陽光発電による相殺が入る前の使ったそのままの電力量です。
1位は全館空調・換気システムのゼンダーコンフォホーム。
断熱を突き詰めたパッシブハウスですが、それでも暖房や冷房で全体の約38%を占めています。
「暖房と冷房をいかに削減するか」が住宅の省エネ化の最大のポイントですね。
2位はパントリーという意外な結果に。
これは実質的に、パントリー内部に設置してある生ゴミ処理機「ナクスル」の消費電力です。
生ゴミをバイオ材に混ぜて加熱・撹拌して分解するタイプの処理機。
とても便利ではあるのですが、なんと冷蔵庫の1.5倍もの電力を消費してしまいます。
電力は主に熱をつくるために使われているので、補助暖房として考えれば許容範囲内でしょうか?
3位は玄関。これも意外です。
この回路には太陽熱温水器の圧力ポンプが含まれています。
ガレージ屋根上の温水器本体と、住宅内の温水タンク間で不凍液を循環させるためポンプを動かす必要があるのです。
温水器システムの電力量は冷蔵庫の0.7倍くらい。ポンプの消費量は完全に盲点でした…。
4位は冷蔵庫、5位は洗濯機。両方とも2023年モデルです。
これらは電力を多く使う家電の代表格なので、できるだけ省エネな機器を使うのが良さそうです。
その他、床下湿気対策の送風機(最初の数ヶ月のみ稼働)や調乳用電気ポッドなど、ややイレギュラーな設備も上位に入っています。
食洗機、電子レンジ、炊飯器は予想よりも少ない消費でした。
なお、1位~10位までで、全体の電力消費の90%を占めています。
やはり、消費量トップの暖房・冷房が省エネ化のキモだと言えます。
ゼンダーコンフォホームの電力消費量(他社システムと比較してみた)
全館空調システム「ゼンダーコンフォホーム」の年間の電力消費量です。
太陽光発電の影響を除いた、ありのままの消費です。
意外な結果!消費のピークは夏となりました。
これは、“夏の消費が多すぎる”のではなく、“冬の消費が少なすぎる”結果です。
2023年の冬は記録的な暖冬でしたが、それでも外気温はマイナス10℃になっていました。
パッシブハウスの性能(高い断熱性と冬の日射による熱取得)がうまく働き、暖房エネルギーを相当削減できたことが推測できます。
なお、温水タンクやガス給湯器、太陽光発電のパワーコンディショナーは室内に設置しています。
生ゴミ処理機やIHコンロの発熱も室内温度にプラスに働きます。
これら設備機器の熱も、暖房エネルギー削減に功を奏したのかもしれません。
このゼンダーの電力消費量は、他社の全館空調システムと比較してもかなり低く抑えられています。
例えば、CMでも有名な「Z空調」。私がざっと調べた限りでは、全館空調の中でも消費電力が低めのシステムのようです。
公式サイトで公開されているZ空調の年間消費電力量は、3地域平均(延床30~40坪)で4,307kWh。
自宅ゼンダー(延床55坪)はこれと比べて約34%の消費減です。
それ意外の他社製システムとの比較も含め、詳しくは後日予定の別記事にてまとめたいと思います。
エネルギー用途別の一次エネルギー消費量(寒冷地ZEHと比較してみた)
この項からはマニアックな領域に入ります。
まとめまで読み飛ばしてもOKです!
佐久平PHの電力・ガスを、一次エネルギー消費量に換算してみました。
暖房や給湯などの各エネルギー用途別にまとめてあります。
用途別に正確に切り分けるのは難しいので、ざっくりでの分類です。
ゼンダーは換気の消費を60Wとし、5~10月を冷房期、11月~4月を暖房期としています。
この表だけ見ても消費が多いのか少ないのか分からないので、ZEHと比較してみましょう。
ZEH平均と佐久平PHの比較表です。
3地域ZEHのエネルギー消費の合計値は実績値(N=14)。
ZEHのエネルギー用途の内訳はZEH平均の設計値からの推計です(N=56)。
佐久平PHの都市ガスは、給湯とその他(調理)に半々で振り分けてあります。
内訳は推計値同士の比較なのであまり信頼性はありません。全体の合計を見るのが良いと思います。
消費そのものは佐久平PHの方がZEHよりも多くなっていますが、佐久平PHは平均よりもだいぶ大きめの建物です。
面積あたりの消費で比較すると、エネルギー消費量の合計は佐久平PHがZEHの64.8%。
つまりパッシブハウスはZEHよりも約35%の省エネという結果になりました。
参考:
「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業調査発表会2023」資料
省エネシミュレーションは正確だったか?(PHPP&Webプロと比較してみた)
この項では事前の予測値と1年間の実績値を比較します。
パッシブハウス用のシミュレーションソフト「PHPP(パッシブハウス・プランニング・パッケージ)」。
建築物省エネ法に基づいた国交省の「エネルギー消費性能計算プログラム(通称 Webプロ)」。
この2者を比較対象にしてみました。
PHPPとの比較表。上が予測、下が実績です。
パッシブハウス基準値の暖房需要と冷房需要は有名ですね。
これに、外気温の影響を受けた空調効率(COP)の補正を掛けて、実際にその家で必要とする暖房/冷房エネルギーを出します。
更に、給湯・調理・設備などの必要エネルギーを足して、合計消費エネルギーを算出しています。
結果としては、全体の合計消費エネルギーは予測と実績がほぼ一致しました(合致率100.58%)。
いっぽうで、暖房や冷房の消費は、実績値の方がかなり小さくなっています。
暖房や冷房がここまで乖離していても全体では一致する、というのは、なんとも分析が難しいところです…。
Webプロとの比較です。
こちらも全体の消費エネルギーは予測と実績がかなり近づいています(合致率97.6%)。
暖房や照明、その他などの各項目で見るとやはり開きが出ていますね。
Webプロは計算精度があまり高くない、というのが実務者共通の認識ではあるかと思います。
が、意外にも自宅に関してはかなり良いところを突いていたようです。
まとめ
本記事の内容をまとめます。
・季節別の総消費電力は、冬≧夏>秋>春
・電気代とイコールとなる買電量は冬>>夏>秋>春
・パッシブハウスの性能により、冬の消費エネルギーが小さい
・総消費電力量のうち、約68%を太陽光発電でまかなっている
・宅内使用電力のうち、約38%が全館空調システム(ゼンダーコンフォホーム)
・ゼンダーコンフォホームの消費電力量は、他の全館空調システムと比較してかなり小さい
・寒冷地でのZEHと比較して、消費エネルギーは35%減
・設計時の省エネシミュレーションと実績値はほぼ一致した
おわりに
今回の記事は以上となります。
普段の生活で電気代を気にすることはあっても、電力消費量を意識することはあまりないかもしれませんね。
皆さんのおうちに毎月届く電気代明細を確認してみて、この記事の消費量と比べてみるのも面白いと思います。
この消費エネルギーの少なさを見て、パッシブハウスの凄さが少しでも伝われば嬉しいです!
次回の記事は「太陽光発電の1年の実績」を予定しています。
更新は未定ですが、楽しみにお待ちいただければと思います。
ではまた!
新津
補足:建物スペック
建築地:長野県佐久市(省エネ区分3地域 標高700m)
構造:木造在来2階建 許容応力度計算による耐震等級2 常時微動探査による固有周期0.12秒
延床面積:55坪(181.6㎡)ガレージ除く
パッシブハウス基準値:暖房需要9.80 冷房需要16.12 ACH0.17回/h
外皮性能:UA値0.21(ヒートブリッジの影響を含む計算値0.205)
C値:0.1(測定値0.055)Q値1.06
太陽光発電:パネル12.0kW パワーコンディショナー9.9kW
(母屋パネル7.2kW PCS5.5kW & ガレージパネル4.8kW PCS4.4kW)
蓄電:日産サクラ(バッテリー容量20kWh) & ニチコンV2HプレミアムモデルVCG-666CN7
換気・空調:Zehnder Comfohome(ゼンダーコンフォホーム)CHM200
給湯:太陽熱集熱器・ガス給湯器(エコジョーズ)
※ペレットボイラーは調整中のため、木質バイオマスによる給湯補助・暖房補助・換気デフロスタ機能は使っていません。
※形状が断熱的に不利な離れの和室は、後日に外付けブラインドと補助エアコンを設置予定です。現状、母屋とは温度に2~4℃の差異が出ています。
パッシブハウスの住み心地はTwitter(X)とInstagramでも随時公開しています!
Tweets by satoru_niitsu
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