パッシブハウス施工日誌⑧ ~建方(建前)編~

こんにちは!新津組、新津です。

パッシブハウス施工日誌、8回目にしてようやく建物本体のレポートとなりました。
家づくりの最大の見せ場となる「建方(たてかた)」。
「建前(たてまえ)」と呼ぶこともありますね。

建方工事の流れそのものはパッシブハウスも普通の住宅もそう変わりはありませんが、
細部にはちょっとした工夫が。
今回も長い記事です。じっくり読んでいただけると嬉しいです!

(本来「建方」は屋根が組まれるまでの1~2日間の作業を指しますが、
 この記事では構造体がおおむね成立するまでの約3週間の工程をまとめて紹介しています)

過去の施工日誌は以下のリンクよりご覧いただけます。
施工日誌①概要編
施工日誌②地盤調査編
施工日誌③地盤改良編
施工日誌④鉄筋工事編
施工日誌⑤基礎・コンクリート工事編
施工日誌⑥基礎断熱・発泡ガラスボード編
施工日誌⑦土台敷き・基礎内断熱編

許容応力度計算による耐震等級2(2.5?)

上の画像は構造解析用の3Dモデル。
これをもとに構造計算(許容応力度計算)を行っています。
2階建ての母屋から、南の中庭を囲むように回廊(下屋)が伸び、
東側は玄関、西側は離れの和室に繋がるという間取り。
かなり特殊な形状の建物ですね。

この建物は住宅性能表示の耐震等級2を取得しますが、計算上は耐震等級3を念頭に
耐震等級2.5くらいを目指した強度を持たせています。

※震度6強~7の大地震で倒壊しない基準が耐震等級1(義務基準)。
 等級2は等級1の1.25倍の地震力に耐え、等級3は1.5倍の力に耐える。

耐震等級3に届かせなかった理由は主にコスト面になりますが、
今回のように変わった形の住宅でない限りは、等級3を満たすのは容易です。
家づくりの際は、ぜひ耐震等級3を取得することをオススメします!

申請上は耐震等級2ですが、実際に建った建物を見ると
耐震等級3に届いてないのが不思議に思うくらいの、極めて頑丈な作り。
揺れによる損傷の可能性はほぼ無いと思っております。
(長野県の東信エリアは歴史資料で見ても大地震の発生がほとんどない地域です)

木造軸組・プレカット・金物工法・構造用面材

構造図面をもとにしたCADデータから、木材を工場で機械加工。
部材ひとつひとつに番号を振った状態で現場に搬入。
「プレカット」と呼ばれるこの工法は、今では木造軸組構法の90%以上で使われています。

今回の現場では、「金物工法」を採用。
木材と木材を金属製のプレートとドリフトピンで接合する工法で、
これもまた木造軸組構法の50%を越えるメジャーなやり方となっています。

(建方終了後の工程になりますが)軸組の外側から構造用合板を打ち付け、
1階と2階の床面にも同じく構造用合板を貼っていきます。
枠組(ツーバイフォー)工法と同じく、線ではなく面で耐力を確保する形に。
従来の筋交いや火打ち梁を省略でき、断熱・気密面でも有利に働きます。
構造用合板にも柱や梁と同様に番号が振られていて、
構造図通りの場所に間違いなく取り付けられるようになっているのです。

気密処理は建方から

上は、建方時に配布された注意書きのうちの一枚。
建物全体の気密を取るにあたって、弱点となりやすい場所を示しています。

胴差(建物外周部で1階と2階の間に入れる部材)周りは注意が必要な箇所のひとつ。
注意書きに従って、調湿気密シートをあらかじめ先張りしておきます。

のちに室内側の気密シートと連続させる必要があるため、
重ね代を見てシートを長めに残してあります。

南面の大開口&吹き抜けを支える工夫

(上の画像は母屋2階から和室側を見たもの)
日射取得を最大化するため、南面には大きな開口と吹き抜けが。
また、母屋から玄関と和室に向かって回廊が伸び、平面計画はU字状に。
そのため、この建物は特に東西方向から掛かる力に対して弱くなる傾向にありました。
この弱点を補うため、構造上でいくつかの工夫を施しています。

ひとつは鉄骨の柱。2本の角柱を基礎から屋根まで立ち上げて、間に梁を繋ぎます。
この鉄骨柱はリビングテーブルの一部としてインテリアに組み込まれます。

基礎コンクリートや土台を精度良く施工したおかげで、木材と鉄骨を繋ぐドリフトピンも
あまり苦労することなく打ち込むことができました。
前段階の施工精度が悪いと、この種の作業はかなりの時間を取られるものです。

ひとつは「フィーレンディール・トラス」。簡単に言えばハシゴ状の梁、でしょうか。
橋などの土木構造物に使われる構造体で、住宅に使うのは珍しいと思います。
ハシゴ状に組んだ木材を内外両面から構造用合板で挟むことで、ひとつの大きな梁として成立。
(画像は構造用合板を施工する前です)
東西方向の壁量が少ないこの建物に強い耐力を与えてくれます。

もうひとつは特注の羽根型金物。
母屋と回廊が繋がる部分に使用しました。
複雑な角度で広がる梁たちをがっちりと繋ぎ合わせるために活躍してくれます。

“よろび”の確認とホールダウン

基本の構造が組み上がったら、要所要所で柱が垂直に立っていることを確認。
仮の筋交いを入れて建物全体の傾きを微調整する作業を行います。
これを「よろびを見る」と表現します。
昔は振り子を使って確認を行ったものですが、今は便利な器材も色々あるようですね!

建物が地震などの水平力を受けると、基礎から柱が浮き上がる力が発生します。
それに抵抗し、基礎と柱を接合する役割を持つのがホールダウン金物
佐久平PHでは最大で耐力60kNのものを使用しています。
おそらく、通常の木造住宅では30kN止まりではないでしょうか?
一般の現場ではほとんど見る機会がないほど強力な金物ですね。

二次防腐・防蟻処理

以前の工程で土台と床下の一次の防腐・防蟻処理を行いましたので、
建方が終了した段階で二次処理を行います。
ホウ酸系の溶液を構造材にしっかりと染み込ませています。

建築基準法では地面から1m以内の木部構造体には
防腐・防蟻処置をするものと定められています。
今回はより安全となるよう、2階の床面までを処理範囲としました。
温暖地などシロアリ被害の多いところでは、屋根までの全構造体に
防蟻処理をするとより安心かと思います。(金額もそれほど高くはなりません)

無事・上棟!

建物の一番高い部材(棟木)が完了した時点で、めでたく上棟となります!
引き続き、雨に備えて屋根組(小屋組・野地板)も素早く進行。
外装が仕上がるまでのしばらくの間は、建物全体が足場とブルーシートで覆われる形となります。

建方を行った11月は記録的に雨が少ないタイミングだったのでラッキーでしたが、
もし屋根の無い状態で雨に振られてしまうと、特に床下が大変なことになります。
スポンジとバケツを持って床下に潜って、基礎から水を吸い取るのは重労働です…!

2022年11月11~13日に開催されたパッシブハウス・オープンデーでは
見学者の皆さんに建方終了間もない状態をご覧いただきました!(写真右側が私です)

おわりに

以上で建方のレポートは終了です。
ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回は屋根の防水工事。
そして、パッシブハウスならではの強烈な断熱工事と続いていきます。
記事更新までしばらくお待ちください!

新津

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