こんにちは!
新津組 代表の新津です。
前回の記事では「屋根」について、複数の役割を持つ重要なパーツだと紹介しました。
今回は「窓」について解説しますが、これもまた極めて重要な要素です。
特に、認定パッシブハウスには性能の高い窓は欠かせません。
窓には断熱・気密・日射取得・日射遮蔽・熱橋に関する性能が求められます。
PHPPのエネルギー計算において、窓の種類が変わるだけで結果が大きく変わります。
かつては日本でパッシブハウスを建てるためには海外から窓を輸入する必要がありました。
近年では国産の高性能窓が普及し始め、選択肢が増えています。
佐久平PH(予定)では国産、しかも長野県産の高性能窓を採用しています。
窓の施工レポート、今回も最後までお読みいただけると嬉しいです!
過去の施工日誌は以下のリンクよりご覧いただけます。
施工日誌01 概要編
施工日誌02 地盤調査編
施工日誌03 地盤改良編
施工日誌04 鉄筋工事編
施工日誌05 基礎・コンクリート工事編
施工日誌06 基礎断熱・発泡ガラスボード編
施工日誌07 土台敷き・基礎内断熱編
施工日誌08 建方(建前)編
施工日誌09 充填断熱編
施工日誌10 付加断熱編
施工日誌11 屋根工事編
窓とエネルギーの関係性
ここで、一般的な窓の性能と、暖冷房エネルギーについて解説します。
冬に窓から逃げる熱エネルギーは、高断熱住宅が普及している北海道でも家全体の約3割。
その他の地域では4~5割にもなると言われています。(北総研調べ)
窓の断熱性能を高めることは省エネルギー面でも快適性の面でも、極めて重要になります。
窓の断熱性能(熱貫流率)はUw値(U-value of window)で表されます。
外皮部分のU値と同じく、値が低くなるほど断熱性能が高くなります。
ガラス部分のUg値(U-value of glazing)とサッシ部分のUf値(U-value of frame)をそれぞれ計算したのちに、Uw値に統合するのです。
一般的に、高断熱窓になるほどガラス部分の方がサッシ部分より断熱性能が高くなります。
また、窓が大きくなるほどガラスの割合が増えるので、Uw値は良くなる傾向があります。
また、断熱性能だけでなく日射熱取得率も重要な要素です。
冬の日射は完全無料で得ることができる暖房エネルギー。
特に、冬の晴れ間が多い東信地域では、窓の配置やガラスの日射熱取得率によって家全体の消費エネルギーが大きく変わってきます。
逆に、夏や春秋の中間期の場合、日射を取り込みすぎてしまうと室内が暑くなり冷房エネルギーも増大してしまいます。
そのため軒の出や、窓の外に設置するアウターシェード、すだれ等で日射を遮蔽する必要があります。
なお、ガラスは断熱性を高めるほど日射熱取得率が落ちるトレードオフの関係にあります。
例えば、日射を取り込みたい南面の窓は、断熱性が多少劣っても日射取得率の多い窓を選ぶ、という選択もあります。
季節ごとのバランスも考えて、どういった窓や日射遮蔽手法を選択していくのか。
それが住宅設計の重要なポイントとなります。
木製サッシ「キュレイショナー」
佐久平PH(予定)では、すべての窓に木製サッシを採用しました。
国内では木製サッシはまだまだマイナーな存在ですが、欧州・北米・韓国などでは当たり前に使われています。
木製サッシは樹脂サッシと比べて高断熱で、製造時の環境負荷も低い。
規格に縛られず自由なサイズで製作できるのも大きな魅力です。
大手メーカーのYKKAPも木製サッシへの参入を発表しました。今後の普及に期待が持てますね。
今回使う木製サッシは、まさに地産地消!
地元・信州産のカラマツで作られています。
現場より車で一時間弱の距離、長野県千曲市の山崎屋木工製作所さんの作品。
新型「キュレイショナー」です。
https://curationer.jp/
オリジナルのキュレイショナーも優れた製品で、私たち新津組でも軽井沢の別荘などで何度も採用しています。
今回使用するキュレイショナーは、パッシブハウス専用に改良を加えた試作タイプ。
弊社施工のパッシブハウス「信濃追分の家」に続いて、国内で2例目の事例となります。
新型キュレイショナーは従来品と比較して、
・サッシ内に断熱材を内蔵し、断熱性(Uf値)が向上
・使用するトリプルガラスを高透過・高断熱型に変更し、日射取得率と断熱性(Ug値)が向上
といった特長があります。
新型「キュレイショナー」の性能値
新型「キュレイショナー」の性能値はPHPPベースで以下の通り。
ガラス部分Ug値は0.53[W/㎡K]。日射熱取得率は0.59。
サッシ部分Uf値はFIX窓で0.69[W/㎡K]。(窓の開閉タイプで異なる)
窓ごとのUw値は0.67~0.90[W/㎡K]。
家全体の平均Uw値は0.73[W/㎡K]です。
対して、国内トップメーカーの樹脂サッシ性能はWeb記載で以下の通り。
樹脂サッシ+ペアガラス(日射取得型)のUw値は2.15[W/㎡K]。日射熱取得率は0.46。
樹脂サッシ+トリプルガラス(日射取得型)のUw値は1.90[W/㎡K]。日射熱取得率は0.42。
(国立研究開発法人 建築研究所ホームページ内「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報」に基づく、建具とガラスの組合せによる開口部の熱貫流率と日射熱取得率 より)
比較してみると、断熱性能(熱貫流率)・日射熱取得率ともに非常に優秀ですね。
パッシブハウスの厳しい燃費基準をクリアするためには、高性能な木製サッシは心強い味方となるのです。
細かい数値のお話はここまで。
では、実際の施工の様子を見ていきましょう!
窓の施工:サッシとガラスは別々に
窓の一部が搬入されました!
今回は、窓のサッシ部分とガラス部分を別々に搬入し、取り付けを行います。
多くの住宅で一般的なように、先行した「信濃追分の家」ではサッシとガラス一体での設置でした。
しかし、大きな窓になると総重量が300kg前後にもなり、作業は極めて難しくなります。
工程はやや増えますが、サッシ部分を先に取り付けておき、後からガラスを入れる方が施工精度が高くなるという判断です。
非住宅の大型窓などでは、サッシとガラス別の施工はよく見られる工法ですね。
まずは北側の、比較的小さい窓から設置していきます。
木製サッシは将来的な窓交換にも対応できるよう、室内側から取り付ける「内付け」が基本です。
窓と躯体の間には樹脂スペーサーを挟んで水平を取っています。
サッシ部分のみなので取り回ししやすく、2人1組でスムーズに据え付けが進みますね。
室外側から見た様子。
キュレイショナーの塗装はカラーバリエーションが豊富で、室外側と室内側を別々の色にすることも可能です。
今回は内外すべてをブラウンカラーにしました。
塗装には特殊な造膜塗料が使われています。
サッシ表面を膜で覆うことで、カラマツ特有のヤニの発生や、紫外線による劣化を抑えることができます。
重ね塗りしても目立ちにくく、破損時のタッチアップ補修も容易に行うことができます。
カラマツの美しい木目がそのまま残るのがとても良いですね。
造膜塗料の撥水性が強いのか、養生テープやガムテープの類がまったく貼り付きません!
窓の配置はエネルギーだけでは決まらない
北側に面するリビングの窓。
片側はFIX(はめ殺し)、もう片側はドレーキップ(内開き内倒し)タイプです。
北側の窓は日射取得が期待できず、高断熱窓であっても壁よりも断熱性能が劣ります。
そのため、省エネ観点では北側窓は弱点となります。
しかしながら、外の景色を楽しんだり、安定した自然光を取り入れたり、適した季節に窓を開けて風の流れを感じたり、北側窓にも様々なメリットが存在します。
(パッシブハウス=窓を締め切る家、ではありません!)
写真の窓も、外に浅間山の雄姿が望める位置に配置されています。
土地の周辺環境によっては、北側に大きな窓を設置することは大いに“アリ”な選択ですね!
余談ですが、作家・横山秀夫さんの小説「ノースライト」は軽井沢が舞台。NHKでドラマ化もされています。
一級建築士の主人公が設計した建物は、北に配した大窓から浅間山が見え、柔らかな光が差し込む、といった特長がありました。
私たちが実際に建てた別荘でも、やはり浅間山を意識したプランが多かったですね。
南側の大窓サッシの施工
小窓の後は、日射取得の要となる南側の大窓を設置します。
上の画像は吹き抜け上部にある四連窓の施工風景。
2本の鉄骨柱を避けつつ、柱の芯を通る位置ぴったりに設置しています。
窓まわりからの漏水を防ぐため、室内側の調湿気密シートと室外側の透湿防水シートを気密テープで繋ぎ、防水層の切れ目を無くしています。
窓を取り付ける補強材(窓まぐさ・窓台)は気密テープで覆われた状態。
そこに窓サッシの内側からビス止めで取り付けをしています。
四連窓を外側から見たところ。
工事の時期はちょうど冬至に近い季節。
太陽がこの窓を横切るように移動し、室内に日光を届ける様子がはっきりと確認できました。
日射取得シミュレーションの通りとは言え、実際に目にすると感心しました!
この建物最大の、1階リビング窓サッシも無事に設置完了。
向かって左側の1枚がスライドで開き、中央と右の窓はFIXです。
窓サイズは幅7.8m、高さ2.4m。この大きさをガラス付きで施工するのは、考えたくもないほど大変ですね…。
日射取得・熱橋を考えると、窓の取り付け位置(室内・室外どちらに寄せるか)がポイントになります。
日射取得を目的にするのであれば、できるだけ外側に付けた方が有利。
が、外に出しすぎると壁の断熱ラインとズレが生じ、熱橋が発生するリスクが高まります。
窓周辺の熱橋リスクはすなわち結露リスク。これは回避したいところです。
また、高断熱木製サッシは相当な重量があるため、外付けの場合は構造的な工夫も必要になります。
それら様々な要素を考慮して、ひとつひとつの窓の取り付け位置を決定しているのです。
このような熱橋の影響を表す数値がInstall-ψ(インストール・プサイ)値。
パッシブハウスの重点要素のひとつです。(国内の省エネ計算ではまったく対象になっていませんが…)
通常は、インストール・プサイを反映すると建物全体の性能値はマイナス側に傾きます。
が、佐久平PH(予定)ではむしろインストール・プサイでUA値も暖房需要も性能アップ!
キュレイショナーのサッシ性能と、取り付け位置の工夫のおかげですね。
サンゴバン・トリプルガラスの搬入
サッシ設置から数日後、今度はガラスが搬入されました!
フランス・サンゴバン社のECLAZ(イークラッツ)トリプルガラス。
世界トップクラスのLow-E加工技術により、高断熱と高透過(高日射取得率)を両立しています。
断熱性能と熱取得性能はトレードオフ、という従来の常識を覆す超高性能ガラスです。
国産の高性能窓として有名な「佐藤の窓」でもECLAZが使われていますね。
私の知る限りでは住宅用サッシでECLAZを採用しているのは2023年4月現在「佐藤の窓」と「キュレイショナー」のみです。
(ECLAZより若干性能は落ちますが、エクセルシャノンのESシリーズでサンゴバンガラスが使われています。)
トリプルガラスの構成は、厚さ6mmのECLAZが3枚。アルゴンガス層18mmが2層。
合計のガラス総厚は54mmにもなります。
樹脂サッシの代名詞であるAPW430は、ガラス厚3mmのガス層16mmで、ガラス総厚41mm。
比較するとECLAZはかなりの厚さがあることが分かります。
この厚さで日射熱取得率は従来のトリプルガラスを上回るというのが何とも不思議ですね。
ガラスとガラスを繋ぎ、ガス層を封入する役割を持つ「スペーサー」。
画像に見える黒いゴムのような部分がそうですね。
ECLAZには「スイススペーサー」という高性能パーツが使われています。
特殊樹脂で熱橋を防ぎ、気密性や対紫外線性能にも優れています。
トリプルガラスの設置
次はいよいよガラスの設置工事です。
建物の前まではクレーントラックで運びますが、そこからは人力での作業!
重さ250kg以上にもなるガラス。実に7人がかりでの運搬・設置です。
吸盤型の運搬器具を駆使。
一度すべてのガラスを室内に置き、それから各設置場所へと運んでいくのです。
和室のガラスの取り付け風景。
ガラスをサッシにはめて、押縁で固定します。
サッシ枠の作成精度や取付精度の良さ、何よりガラス職人さんたちの腕前によって、危なげなく作業が進みました。
午前中の段階で大窓は終わり、午後は小窓とシール処理。
一日でガラス設置工事が完了する形です。
木製サッシの気密処理
防水性と気密性を高めるシーリング工事を行います。
押縁とガラスの境目にシール処理。
通常の窓でも行われるごく一般的な工程ですね。
最後の仕上げはサッシと躯体の間の断熱・気密処理。
WURTH(ウルト)社の弾性発泡ウレタン「ピュアロジックフレックス」を使います。
一般的な発泡ウレタンと比較して約3倍の柔軟性。
施工後のひび割れや引き裂けが起きにくく、熱橋や漏気を防ぎます。
これを隙間なく充填し、更に内外からシーリング処理。
防水や気密の弱点になりやすい箇所なので、徹底的に塞ぎました。
これで窓工事は完了!
同時に、建物全体の断熱・気密工事もすべて終わったことになります。
おわりに:断熱工事の効果
断熱・気密工事が終わってまず気付くのが音の静かさ。
壁厚とガラス厚があり、空気が入ってくる隙間もほとんど無し。
外からの空気振動が大きくシャットアウトされるため、室内は驚くほどの静けさになりました。
そして保温性の高さ。
真冬の工事でも、室内で身体を動かしていれば暖房を付ける必要がなくなりました。
午前午後の休憩時に灯油ストーブを短時間付けるだけ。
夜間は完全に無暖房でも、外気温-5℃〜-10℃の朝に玄関ドアを開けると、中から暖かい空気が出てくるのが感じられます。
その時の室内温度は毎朝ほぼ同じで、約15℃になっていたようです。
工事中、室内でもっとも多くの時間を過ごすのが大工さんたち。
大工さんの身体の負担が少なくなるのも(灯油代が節約できるのも)パッシブハウスの大きなメリットかもしれませんね!
窓工事のレポートは以上となります。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
次回の施工日誌は「気密測定」。お楽しみに!
ではまた。
新津
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